以下の文章は、北岡泰典のメルマガ「旧編 これが本物の NLP だ!」第 6 号 (2003.12.8 刊) からの抜粋引用です。

* * * * * * *

『NLP 個人編集テクニック』については、第 4 号でも述べられましたが、本号において、さらに深く考察してみたいと思います。

まず言えることは、このトピックは、NLP FAQ (頻繁に訪ねられる質問) の一つである「いったいどこまで、またはどのように NLP を学べば、NLP の全体像が見えるのですか?」に関連しているという点です。

すなわち、原書にしろ翻訳書にしろ、NLP 本を読む場合に、2 つの大きな問題が発生すると思われます。

一つ目は、NLP には多岐に渡る理論 (というよりは、むしろ認識論で言う『モデル』) が存在します。これらのモデルとしては、ざっと頭に浮かぶだけでも、『表出体系』 (『Representational Systems』の私の訳ですが、現在国内で使われている『代表体系』は私は誤訳だと思います。この理由は、別途触れたいと思います)、『NLP 諸前提』、『アンカーリング』、『眼球動作パターン』、『知覚ポジション』、『カリブレーション』、『メタモデル』、『4T』、『チャンク』、『TOTE』、『メタプログラム』、『タイムライン』、『リフレーミング』、『サブモダリティ』、『心身論理レベル』等を挙げることができます。

NLP のモデルの場合、ほぼ必ずと言っていいほど、それらのモデルを実生活に「落とし込む」 (適用する) ために各モデルに即した特定の NLP 演習テクニックが考案されていて、対応する各モデルと演習がそれぞれ一対の理論と実践的手段を構成しています。たとえどれだけ NLP 本を読んでも、対応する演習を経験しないままこれらの理論だけを体感経験として実証的に理解することは、もちろん不可能です。

また、二番目の問題として、たとえば、ジョン グリンダーとリチャード バンドラー著の 1979 年出版の『王子さまになったカエル』 (現在の邦訳タイトルは『あなたを変える神経言語プログラミング』です) の内容は、この二人の NLP 共同創始者が開講したワークショップの内容を編集転記したものですが、NLP あるいは少なくともゲシュタルト セラピー風のワークショップに実際に参加した経験がないかぎり、書かれている内容を頭ではなく体で理解することはまず不可能なことも言うまでもありません。

上記の 2 つの問題は、「NLP は理解するのが難しい」という NLP に対する一般的な意見が生まれる大きな要因になっているとも思われますが、これら 2 つの問題を解決し、しかも上記の「いったいどこまで、またはどのように NLP を学べば、NLP の全体像が見えるのですか?」の FAQ 質問の答えにもなるのが、NLP トレーナーから一連の NLP 個人編集演習テクニックを学び、実際に体験してみることであると言えます。

すなわち、これらの NLP 個人編集演習テクニックを実際に体験することによって、NLP が単なる頭の体操的な、左脳志向の理論群ではなくて、実際には、上述のようなモデルのすべてが互いに有機的に、ダイナミックに、そしてホーリスティックに (全体的に) 関連し合っていることが体感としてわかるようになります。この時点で初めて「NLP の体系としての全体像」が見えるようになるのであり、さらに、なぜこれらのモデルがそもそも NLP 体系に導入されるようになったのかの理由もわかるようになります。比喩を使って言うと、NLP の各モデルは、大都市の地下鉄の各駅とその周辺地域のようなものですが、各駅の周辺地域をフィールドワークとして実際に現地で検証し、駅と駅を結び付けている「地上部分」を歩き回れば回るほど、ある駅と他の駅が地上ではどのように「有機的に」つながっているのかがますます実証的に認識できるようになり、最後には、地下鉄の駅の地上レベルでのネットワークの全体像が見えるようにもなります。同じことが、NLP のモデルについても言えます。

ここで、左脳知識としていくら地下鉄の各駅の詳細を個別に研究し続けても地下鉄のネットワークの全体像が見えることはありえないので、もし仮に NLP の全体像を、最初はどれだけおぼろげであったとしても、掴みたいと思う方がいたとしたら、左脳志向の紙面上の NLP に関する知識を過剰に収集するかわりに、まず、できれば有能な NLP トレーナーが開講する、右脳志向の、生きた NLP ワークショップに参加されることを強くお奨めします。

もちろん、このメルマガを通じて、読者の方々に実際の NLP 個人編集演習テクニックを実際に体験していただくことは、そもそもまったく不可能なので、この紙面上 (というよりはむしろ仮想現実上) で皆さんに NLP 演習テクニックの実際の体験を強く推奨すること自体に、解消不能な矛盾が存在しています。私がここでやっていることは、私の指を使って、読者の皆さんに月を指し示しているようなもので、実際に月が見えるように皆さんに私の指のはるか先を見るという実証的な作業を個々人でしていただく必要があり、この作業を自分で行わないかぎり、私の指が指し示しているものを見るのは絶対に不可能です。(ちなみに、非常に悲しいことに、中には、自分で夜空を見上げて月を見ようとするかわりに、私の指を見つめ続けて、この指が月であると錯覚される方もいらっしゃる可能性は否定できないと思います。この問題は、第 3 号でも指摘した、ベイツンの『論理タイピング エラー』とも関連しています。)

ちなみに、少なくとも欧米の NLP 業界について言えば、NLP プラクティショナー資格認定コースは、上記の比喩で言う地下鉄の各駅の詳細 (NLP の各モデル) について、それぞれ対応した演習とともに個別に学習習得するためにあり、マスター プラクティショナー資格認定コースは、プラクティショナー コースで個別に習得した各駅 (各モデル) 間の有機的な関連性を学習体感して全体のネットワーク (全体像) に熟知するためにあり、トレーナーズ トレーニング資格認定コースは、全体のネットワークと個別の各駅 (各モデル) の両方のレベルについて、高度な熟知/習得度を達成するためにある、と見なすことができるかもしれません。

以上のことを前提にして、NLP 個人編集演習テクニックの説明 (反復になるかもしれませんが) と、そのメカニズムと効果について言及したいと思います。

NLP の『個人編集』テクニックとは、1980 代後半にジョン グリンダーとジュディス ディロージャが開講した一連の『個人的な天才のための必須条件』ワークショップで使われていた用語ですが、「個人の既存の行動/思考パターンを編集して、自分が求める行動/思考パターンを作り出す」ためのテクニックという意味です。個人編集テクニックは広範な演習を含んでいますが、中でも、『メタミラー』、『共鳴パターン』、『ディズニー創造性ストラテジー』、『信念体系統合』、『卓越サークル』、『タイム ライン』、『心身論理レベル統合』、『アンカー統合』、『姿勢編集』、『チャート編集』等が特記できます。これらのテクニックのうち最初の 5 つは、私が最高の NLP テクニック考案者と見ているロバート ディルツの考案です。これらの列挙されたテクニックは、示されている定義の明示的な意味での『個人編集』テクニックですが、本号のメルマガの冒頭に言及されているモデルのうち、個人編集テクニックとしては挙げられていないものあります。これらは、『アンカーリング』、『眼球動作パターン』、『知覚ポジション』、『カリブレーション』、『メタモデル』、『4T』、『チャンク』、『TOTE』、『メタプログラム』、『リフレーミング』、『サブモダリティ』ですが、実は、これらに対応する演習テクニックも、演習実践者の個人的な行動/思考パターンを少なからず変えるという意味では、これらのテクニックも含めて、NLP テクニックはすべて、広義の意味で、個人編集テクニックであると定義することも可能です。

ただ、これらの広義の意味での個人編集テクニックのうち、『TOTE』だけは、特別な意味をもっています。すなわち、このモデルは、狭義と広義の定義に基づいた NLP 個人編集テクニックすべての理論的背景になっている重要なモデルです。

『TOTE』は、「テスト – オペレート – テスト – エグジット」の略語で、(人間の脳を含めて) すべての自己調整システムが満足の行く形に機能するために必ず経るプロセスまたは原則を意味します。このモデルの基本的なメカニズムは、以下に示されています。

このプロセスの最も簡単な例の 1 つは、ある人が聞いているラジオの音量を調節したいと思うときに示されます (「1. TOTE 図、その 1」の表 2 を参照のこと)。すなわち、現在のラジオの音量がその人にとってあまりにも低い (またはあまりにも高い) 場合、すなわち、必要な音量に関するその人の基準と一致しない (「テスト」段階) 場合、その人は音量をコントロールするラジオのノブに手を伸ばして、調節します (「オペレート」段階)。このオペレート段階は、その人が音量に満足して、快適にラジオを聞けるようになるまで、すなわち音量がその人の基準に一致して、その人がソファーに深く腰を落して、リラックスしてラジオの音楽を聞き始めるまで (「エグジット」段階) 続きます。ここで、ラジオの音量の調節はただ 1 回で終わる場合もありますし、または、その人が受け取るフィードバック (音量) がその人の基準を満たすまで、何度か繰り返される必要があるかもしれないことに留意してください。以上のプロセスが「テスト – オペレート - テスト - エグジット」です。

この TOTE のモデルは、NLP 個人編集テクニックの基礎をなしていますが、個人編集のメカニズムは、以下に示されています。

すなわち、表 3 では、ある入力データ (人間の五感の知覚データ) が人間の脳に入ると、「現在の精神状態 (テスト)」に対して、その入力データが「アンカー」 (NLP で最重要なモデルで、パブロフの『条件反射』に近いモデルです) となって過去からの手段が無意識的に現在の状態に適用される (オペレート) メカニズムが示されています。例としては、非常に幸福感に満ちて街を歩いていると (テスト/現在の状態)、ふと目にしたある男性の目つき (アンカーリング) によって、突然子供の頃同じ目つきをした自分の父親にひどく怒られたことを瞬時に、無意識的に思い出して (オペレート/自動的に選択された手段)、意味もわからないまま気分が悪くなる (エグジット/行動) といった事例が挙げられます。

このアンカーリングのプロセスは、通常すべて無意識的に起こるので、また、日常生活においてこのプロセスはさまざまな形態を取りながら極めて高い頻繁に起こっているので、私たちは、普通、自分の求めていない行動/思考パターンを意識的に変えることはほとんどできませんが、幸いにも NLP では、個人編集テクニック演習を行うことによって、同じ TOTE のプロセスを使って、自分の求めていない行動/思考パターンを自分の本当に求めている個人的な行動/思考パターンに編集し直すことができるようになりました。この『個人編集』のメカニズムは表 4 に示されています。

すなわち、NLP 個人編集テクニック演習を行うと、同じ入力知覚データが脳に入ってきたとしても、求める目的状態に照し合せた現在の状態 (テスト) に合わせて必要な手段、すなわち個人編集用に意識的に選択した手段を適用できるので (オペレート)、結果として起こる行動 (エグジット) も今までの無意識的、習慣的な、望まない行動ではなく、自分が本当に望む行動を生み出すことができるようになります。

このことを、上の例を引き続いて使いながら説明すると、たとえ同じ男性の目つき (アンカーリング) が入力知覚データとして脳に入ってきたとしても、自分が求める目的状態 (テスト) がわかっているかぎり、そのような目つきを見ても動じなかった過去の特定の状況の自分を意識的に思い出すことで、その目つきを見てもことさら子供のときの父親の怒りを思い出す必要はないと自分自身を説得させて (オペレート)、幸福感を持ち続ける (エグジット) ことが可能になります。

以上が TOTE の観点からの NLP 個人編集テクニックのメカニズムの説明ですが、このメルマガで何度も示唆してきているように、このような NLP 個人編集テクニックについてのモデル (理論) は、実際の個人編集テクニック演習を行わないかぎり、実証的な価値は何もありません。

ちなみに、TOTE は、NLP 以前のモデルで、ジョージ ミラー、ユージーン ガランター、そしてニューエージ シンカーの一人であるカール プリブラム共著の『Plans and the Structure of Behavior (行動の計画と構造)』 (1960 年) で提唱されたコンセプトです。

また、私は TOTE のモデルを、ケンブリッジ大学卒の数学者である英国人の私の知人に説明したことがありますが、極めて懐疑的なこの数学者/哲学者は「TOTE が本当にモデルとして有効かどうか考えてみたい」と言いました。約半年後に、彼は私の元に戻ってきて、「やはりどこからどう考えも、このモデルの有効性は否定できない」という彼の結論を私に伝えました。

私自身の経験では、NLP 個人編集テクニックの美しさは、これらのテクニックの実践者が、克服または超越したい過去の否定的な経験を『リフレーム』 (NLP では、ほぼ『発想の転換』と等しい用語です) することができる、すなわち、異なった状況にいても似た経験を何度も繰り返すことを強制していた心身パターンを変更して、同じ状況にいても新しい内的経験を生み出せるようになる、という点にあります。この新しい経験は、その後、将来アクセスして、さらにリフレームすることができる「参照機構」になります。参照機構にアクセスして、それを編集して、さらに新しい参照機構を生み出すこのサイクルは、永久に何度も同じ無意識の、自分が望まない行動/思考パターンを繰り返すのとは正反対な「好循環」または「肯定的フィードバック ループ」を永久に続けることを可能にさせてくれます。

上記の個人編集テクニックがもつ効果のメカニズムは、コンピュータのワープロ ソフトの比喩で説明するとよく理解できるかもしれません。たとえば、書き終えたテキストは、ハード ディスク上にファイルとして保存することができます。普通の人々に起こることは、言ってみれば、子供時代に起った自分自身の経験を「保存」した後、同じ未編集のファイルに何度も「アクセス」して、同じ退屈なテキストを読んで (経験して)、同じファイルをそのままハード ディスクに保存し戻すプロセスを何度も繰り返して続ける、といったようなことです。通常、私たちには、この退屈な同じテキスト以外の新しいテキストをコンピュータのモニタ上に継続して、恒久的に表示させるための手立てがありません。このため、いわば、死ぬまで同じ陳腐なテキストを表示し続ける運命にあります。

しかしその一方で、NLP 個人編集テクニックにより、私たちは、そのようなファイルにアクセスした後、子供時代に起こったことではなくて、今ここで起こっていることを反映するような形にそのファイルを編集して、その新たに編集したファイルをハード ディスクに保存することができるようになります。もちろん、私たちは後で、この新たに保存されたファイルにアクセスして、再度編集することができ、このプロセスは、私たちが自分自身に満足するまで、いつまでもこの「好循環」を継続していくことが可能です。(ここにもまた、仮にアクセスされたファイルがうまく機能している場合 [すなわち、現実を満足がいく形に反映している場合] は、私たちは必ずしもファイルを編集する必要はなく、未編集ファイルをそのまま [意識的に] 保存し戻すことを選ぶことができる、という美しさがあります。)

作成 2023/10/3