以下の文章は、北岡泰典のメルマガ「旧編 新・これが本物の NLP だ!」第 62 号 (2006.11.23 刊) からの抜粋引用です。

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今回は、「NLP 相関図」の情報を中心にお伝えします。


1. NLP 相関図

NLP は、「テクニックの寄せ集めにすぎない」と言われることがあるようですが、これほど事実とはかけ離れていることはないことは、2000 年に NLP 共同開発者のロバート・ディルツジュディス・ディロ-ジャが NLP ユニバーシティ から出版した『体系的 NLP と NLP 新コーディングの百科事典』全二巻の存在を知るだけで充分かと思います。この百科事典は、A4 のサイズで、各巻 800 ページ、計 1,600 ページの大書です。

この中で、私のメルマガの読者から、「NLP 相関図を作っていただけませんか?」というリクエストがありましたので、本メルマガの今号を使って、NLP の誕生に影響を与えた人々、および NLP と姉妹、従姉妹関係にあって、NLP と相互影響しあっている学派および思索者を紹介することにします。

なお、この相関図は、欧米では多くの NLP ピア (NLP 専門家) に受け入れられてきますが、もろもろの理由からこれまで日本にはこのような NLP の『認識論的』背景がほとんど伝わってきていないのは、非常に残念なことだと思います。

このページにある NLP 相関図は、あくまでも、NLP ピアとして専門知識をさらに深めたいと思う人々の研究支援ツールであり、これらの知識がなければ NLP テクニックを学べない、体感できない、ということはありません。

NLP は「左脳的知識を右脳知識に落とし込む」ことにかけては絶大な効果を現わしますが、左脳的知識がなくても、充分自己変容の効果を体験することは可能です。


注意 1: 以下の各人物の名前のリンクをクリックすると、その人の概要説明にアクセスできます。ただし、HTML形式の場合だけ対応しています。HTML形式非対応の場合は、本セクションと同じ内容が以下のページでHTML形式で見れます。

http://www.kitaokataiten.com/archives/2005/08/influences.html

注意 2: 相関図の目次は、以下のページにあります。

http://www.kitaokataiten.com/archives/2005/08/influences_2.html

注意 3: 以下の相関図は、NLP に影響を与えた学派と学者をすべて網羅しているわけではありません。


まず、「NLP の父」と称せられるのは、英国生まれの文化人類学者、グレゴリー・ベイツンと世界最高権威の催眠療法医、ミルトン H. エリクソンです。

NLP 共同創始者のジョン・グリンダーリチャード・バンドラーが 1975 年にカリフォルニア大学サンタクルーズ校で NLP を創始したときにその師だったベイツンは、「認識論」(我々が知っていることをどのように知っているかについての科学) の観点から、NLP の共同創始者に多大な影響を与えました。ベイツンの存在なしに NLP の誕生を考えることは 100% 不可能です。

ベイツンはバートランド・ラッセルの認識論に大きく影響されていて、ラッセルの源泉は、17 世紀のイギリス経験主義にあると考えても妥当です。

イギリス経験論者には、ジョン・ロックジョージ・バークリーデイヴィッド・ヒューム等がいました。NLP 共同創始者のグリンダーはこの中でも特にヒュームに影響を受けています。

ベイツンは、20 世紀のサイバネティックス、情報理論、システム理論、量子力学等の学問を基に、過去三百年間優勢を誇ったデカルトニュートン的な「還元主義」から脱却し、システム全体を考慮し、「固体よりも関係性を重視」するホーリティステックでエコロジカルなアプローチを提唱しました。すなわち、「物質」の世界は、「プロセス」、「イベント」、「形態」、「パターン」の世界に取って代わられるべきことが主張されました。言い換えれば、「客観的世界」は、「観察者」自身とは切り離して考えられなくなり、たとえば、シグモント・フロイトが拠り所にした、(過去から未来に流れる) 線状的な因果関係は、宇宙の絶対的原則ではなくなりました。

サイバネティシャン/システム理論学者としては、サイバネティックスの創設者として知られているノーバート・ウィーナー、NLP に影響を与えた学者であるロス・アシュビーがいます。

ベイツンのワークの 20 世紀後半の学際的な学者への影響は絶大で、 『タオの自然学』を書いたフリッチョフ・カプラ、 「形態共鳴」の概念を提唱したルパート・シェルドレイク、「百匹目の猿」現象を報告したライアル・ワトソン、ビジネス界で「学習する組織」を提唱したピーター・センゲ等が彼の影響を受けています。さらに、後述のエリクソンの「後継者」は、全員、ベイツンの影響下にあります。

ベイツンは、「論理階梯の理論」を提唱しましたが、これと密接に関連している格言「地図は土地ではない」は、一般意味論者のアルフレッド・コージブスキーが唱えたものです。

また、ベイツン的な「還元主義」から脱却したホーリティステックでエコロジカルなアプローチは「パラダイム シフト」と呼ばれるべきものですが、この概念はトーマス・クーンによって提唱されました。

ベイツン的なパラダイム シフトに貢献している学者としては、量子力学者のデイビィッド・ボーム、NLP が取り入れた「TOTE」モデルの当初の開発者の一人であるカール・プリブラム、『意識進化のプロセス理論』を書いたアーサー・ヤング、「オートポイエーシス」の概念を提唱したウンベルト・マトゥラーナフランシスコ・バレーラ等の名前が挙げられます。

さらに、ベイツンと同じような学際的に大きな影響を与えている人物に建築家、数学者、発明家、思想家のバックミンスター・フラーがいます。

ちなみに、グリンダーは、NLP に最も大きな影響を与えた人の名前を一人挙げるとしたら、それは変形生成文法学者のノーム・チョムスキーであると、最近の著者の中で書いています。

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以上は、「NLP の父」の一人であるベイツン サイドでの NLP 相関図ですが、もう一人の NLP の父のエリクソン サイドの相関図は以下のとおりです。

通常 NLP を生み出した源泉としては、エリクソン、ゲシュタルト療法の創始者、フリッツ・パールズ、家族療法の母、ヴァージニア・サティアの三人が挙げられますが、これは、NLP の共同創始者のグリンダーとバンドラーがこれら三人の「心理療法の魔法使い」をモデリングした結果、『魔術の構造』を書いて、1975 年に NLP を創始したからです。

グリンダーとバンドラーをエリクソンのもとに送ったのはベイツンでしたが、ベイツンは 1960 年代、MRI (メンタル リサーチ インスティチュート) の理論的指導者でした。

MRI の重要な人物としては、『アンコモン セラピー』でエリクソンの名前を世間一般に広めたジェイ・ヘイリー、コミュニケーション分析家の第一人者、ポール・ウォツラウィック、短時間療法の MRI モデルを開発したジョン・ウィークランド等がいました。

他にも「エリクソニアン」としては、1980 年のエリクソンの死後エリクソン財団を創立したジェフリー・ザイグ、NLP 創始以前 NLP を共同開発していたステーブ・ギリガン、かつて『実用的な魔法』という NLP 入門書を書いたこともあるスティーブ・ランクトン、ソリューション フォーカス セラピーのスティーブ・デ・シェーザ、エリクソンの全四巻本全集の編者、アーネスト・ロシ等がいます。

前述したように、これらのエリクソン派の人物は、全員、ベイツンに強い影響を受けています。

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以上のベイツン サイドとエリクソン サイドとは少し方向性は異なってはいますが、パラダイム シフトを押し進めている現代の学派に「トランスパーソナル心理学」があります。この心理学は、カール・グスタフ・ユングの「集合的無意識」の観点から、「個」を超えた「超個」の領域についての明示的マッピングを図っています。3 人の卓越したトランスパーソナル心理学者はケン・ウィルバーチャールズ・タルトスタニスラフ・グロフです。


以上が、NLP 相関図ですが、NLP の総合的背景が理解できたでしょうか?

上記でも示唆したように、NLP は、300 年来デカルト/ニュートン的な「還元主義」から脱却し、「固体よりも関係性を重視」するホーリティステックでエコロジカルなシステミック アプローチに移る、20世紀の「パラダイム シフト」の認識論的背景が「実用的ツール」として顕在化された方法論であることが判明すると思います。

冒頭でも指摘しましたが、以上の認識論的背景を詳細に研究しなくても、NLP のテクニックの効果は充分体験可能です。

なお、この「NLP 相関図」のセクションと同じ内容を以下の Web ページにアップロードしています。

http://www.kitaokataiten.com/archives/2005/08/influences.html

作成 2023/11/28