以下の文章は、北岡泰典のメルマガ「旧編 新・これが本物の NLP だ!」第 60 号 (2006.10.5 刊) からの抜粋引用です。

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先週末は、東京第四期マスター プラクティショナー コースの第二モジュール「催眠 vs NLP」が開講されました。NLP のミルトン モデルの観点からの肉声のエリクソンのトランス誘導の分析、ガイディッド ファンタジー、三重トランス誘導等の催眠現象に関する習得、実践演習が行われました。

その意味で、同モジュールでは、本メルマガの過去 2 号のトピックと非常に密接に関連した内容がカバーされたので、今号でも、前号のトピックについて継続的に語ってみたいと思います。


1. 高次の肯定的意図&中心視野 vs 周辺視野

「高次の肯定的意図&中心視野 vs 周辺視野」の図式については、過去 2 号で詳細に述べてきています。第 58 号では以下のように書かせていただきました。

「以上の私の『発見』を図式化してみると、以下のようになります。

上の図では、太い傍線矢印は肯定的意図から問題になっている症状を見ている中心視野を意味していて、細い破線矢印は同じ肯定的意図から見た周辺視野を意味していています。この周辺視野は、肯定的意図を満たしうる他の無数の (x 個の) 代替行動を同時に見ることができます。

私は、個人的に、この『6 ステップ リフレーミング』と『中心視野/周辺視野』を組み合わせた考え方は非常におもしろく、有益だと思いました。」

これに関連して、一点重要な追加情報として、上記の図式は、「ニューコード用変化フォーマット (ニューコード ゲーム)」がどのように機能するのかにもほぼそのまま当てはまるということをここで明記しておきたいと思いました。

すなわち、このフォーマットの第三ステップ目でニューコード ゲームを行うことで「全知覚経路がオープン」になって、「全知覚入力に敏感」になっている (という「高次の肯定的意図」をもっているとも言える) ノウナッシング ステートにアクセスして、そこから「周辺視野」を備えて、第四ステップの「問題スペース」にそのまま戻るというメカニズムは「高次の肯定的意図&中心視野 vs 周辺視野」の図式とは矛盾しないと思われます。

なお、今後、私は、この図式を取り入れた新演習を考案していきたいと思っています。


2. 上司は部下にしてほしいことを明示的に伝えられるか

今回のマスター プラクティショナー コースの第二モジュールでは、私は以下のことを指摘させていただきました。

従来、たとえば、会社の上司はその部下に対して、「人の顔色を見れるようでなければならない」、「他の人の立場に立ってものを考える必要がある」、「一を知って十を知るようなセンスが君には足りない」といったコメントを発する機会が多く見られたと思います。(実は、この関係は「上司 vs 部下」だけではなく、「親 vs 子供」にも当てはまりますが。)

しかしながら、ここで指摘しておくべきことは、(少なくとも NLP の出現以前は) どの上司も誰一人としてその部下に対して、上記のようなコミュニケーション技能を向上させる方法を明示的に提示できずにきていたという歴然たる事実です。この状況は、(NLP がスペル習得ストラテジーを発見する以前の) 学校の英語の先生が、自分でスペル上達法がわかっていないのに、その生徒全員に、自分勝手に我流でスペルの習得方法を見つけるように指示するのと同じくらい笑止千万の状況に私には思えます。

しかしながら、非常に興味深いことは、NLP およびそれに基づいたモデルを使うと、上記のような「雲を掴むようなコミュニケーション技能」も、完璧に明示的に他の人に教えられるという点です。

たとえば、「人の顔色を見れるようでなければならない」については、NLP でいう「カリブレーション」テクニックで充分技能向上が明示的に図れます。今回のマスター プラクティショナー コースの第一モジュールでは、ジェニー ラボード女史著で、私が訳した『ビジネスを成功させる魔法の心理学』で示されているカリブレーション テクニックとして、各グループになったコース参加者に、お互いに相手の下唇の変化、顔の色の変化、極微筋肉動作、呼吸の変化等を観察し続けてもらう演習をしていただきました。この場合、特に、下唇を観察した参加者からは「最初は何を見ていいかわからなかったが、演習を続けているとその変化に気づくようになった」、「相手の精神状態の変化に応じて下唇も変化することがわかるようになった」、「非常に深い変性意識に入った」といった報告を受けました。このようなカリブレーション能力を磨くことによって、文字通り「人の顔色を見れる」ようになれるのは自明のことです。

また、 「他の人の立場に立ってものを考える必要がある」に関しては、NLP の知覚ポジション変更の演習を行うことで、他の人の「世界地図」を知り、その観点からその人を理解する能力は飛躍的に向上することができます。それゆえ、この技能も NLP では明示的に教えることができるようになっています。

さらに、「一を知って十を知るようなセンスが君には足りない」については、本メルマガの前号の最後の項目、「3. すべては何か他のことの例である」で、私は以下のように書かせていただきました。

「たとえば、現在企画中の私の英語学習本の中では、辞書の引き方も言及されますが、『run』という単語を辞書で引いて

『run three miles 3 マイル走る』

という言い回しがある場合、この三つの単語を『アーケタイプ的に見ない英語学習困難者』は単に三つのことしか学べないのでしょうが、学習のコツを捕まえている人にとっては、この言い回しはほぼ無数のことを教えてくれているので、『リソースの宝庫』と見ることができます。

つまり、現象界 (表層構造) に捉われず、『この (アーケタイプとしての) 言い回しは何か他の例である』ということが理解できる人は、とっさに、『run』は『walk』、『go』、『move』、『advance』等、非常に多くの単語と互換可能であり、『three』のかわりにはありとあらゆる無限の数の数字を入れることが可能であり、『miles』のかわりに『mm』、『cm』、『m』、『km』、『yards』、『shakus (尺)』、『ris (里)』等、一定数の単語を互換させることができることを理解します。

ということは、その人は、この言い回しだけで (二番目の数字は無限の変数があるので) 文字通り、誰も否定できない形で、『無限の数の表現』をすでに学習したことになります。(私は、個人的には、これを『奇跡』と見なします。)

私は、中学、高校時代に、いくら学習に時間をかけても凡才であることも、まったく時間をかけないのに天才であることもあって、その頭の中のメカニズムの違いを知りたいと切望していましたが、その答えがここにあると主張したいと思っています。」

以上の説明は NLP プロパーではないにしても、NLP が基盤としているチョムスキーの変形生成文法的な考え方です。

私は、個人的には、「一を知って十を知るようなセンス」を部下 (または子供) にもってほしい上司 (または親) は、部下 (子供) に上記のようなものの考え方を身につけてもらえれば、間接的、直接的にこの技能の向上を明示的に教えることができる、と考えています。


3. なぜグリンダー氏はプロセス モデルに固執するのか?

前項ではチョムスキーの変形性文法について言及されましたが、これに関連して、先週末コース参加者の一人から極めて興味のあることを指摘されましたので、ここで報告させていただきます。

その方によると、チョムスキーの変形性文法は、母国語を喋る人々がどのように直感的にある文が形成妥当であるかあるいは誤形成であるかを決定しているかを、構文的樹形図で完璧に論理的に分析できることになっているが、このチョムスキーの立場に対しては、意味論的な分析によらなければどうしても分析不可能な要素もあるという批判が歴史的に起こってきているということでした。この指摘の後、その方は、「このような意味論的な (すなわちコンテント志向の) 批判を前もって事前に完全排除するために (そして、しいては、これにより「自己防衛」を図るために)、グリンダー氏は『プロセス モデル』だけに絶対固執する道を選んでいるのではないでしょうか?」という意味のことをおっしゃりました。

私は、単に、グリンダー氏は「プロセス モデルの提唱者」として歴史に残りたいと思っているのでは、と思っていましたが、この指摘は極めて興味深いと思いました。グリンダー氏の、厳格すぎるほどのプロセス モデルへの固執を鑑みると、この指摘が妥当である可能性は高いと思います。

(興味深いことは、トレーナーズ トレーニング コース等での演習中のコース参加者へのグリンダー氏の介入のし方を見ていると、グリンダー氏自身、コンテンツ レベルの介入も頻繁に行っていたのではないかという事実です。)

なお、私自身は、この問題については、プロセスもコンテントも、両方の要素が欠けても、あるイデア的な事象は現象界に顕在化することはできない、という立場を取っているので、どちらを強調するかは、個々人の志向性に依存しているという考え方を取っています。


4. 催眠/トランスの定義

今回のマスター プラクティショナー コースの第二モジュールでは、私は新たな「催眠/トランスの定義」を提示させていただきました。それは、次のようなものでした。

「外界からの知覚入力がそのままの形で内部の世界地図に書き込まれる場合、催眠/トランス状態と定義できる」

すなわち、外界からの知覚入力が、批判的マインドに拒絶されないまま、そのまま自分自身の世界地図の一部として受け入れられるときは、「催眠状態」にあると定義することができます。

この「外界からの知覚入力」は、他人からの暗示のように 4Ti であれば、この定義はもちろん妥当ですが、仮にその知覚入力が 4Te で、生のリアルタイム情報であったとしても、「4Ti であっても 4Te であっても、その情報は『タブララサ (白紙の状態)』的な『純粋な観照者』の上に瞬間瞬間継続的に書き込まれている」という意味では、4Te の場合にも当てはまりうると言えるかと思います。両者には相対的な違いしかないように思えます。

なお、この問題点は、「アップタイム トランス」という一見矛盾する用語とも密接に関係していると思いますし、また、「はたして 4Ti と 4Te の両方を同時に見ることはできるのか?」といった命題とも関連しています。

作成 2023/11/26