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以下の文章は、北岡泰典のメルマガ「旧編 これが本物の NLP だ!」第 57 号 (2006.8.18 刊) からの抜粋引用です。

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現在、英国ロンドンに出張中です。先週はイタリアで 6 日間のスティーブ ギリガンのワークショップに参加してきました。

今回は、その報告を主に筆を取ります。


1. 欧州徒然考

英国には、過去通算で 20 年近く滞在しましたが、やはり私は非常に住みやすいと思います。まず気候としては、すでに「夏の終わり」を思わせるほど涼しく、昨日まで数日間の気温は 20 度ないしは 20度代前半くらいだったと思います。湿度も非常に低く、からっとしています。

また私はハムステッド地区にいわゆる「SOHO (Small Office Home Office)」を構えていますが、このロンドン市北部には、ハムステッド ヒース (ここには、昔貴族が所有していた池のある荘園と今は美術館になっている白亜のマナー ハウスがあります)、プリムローズ ヒル、リージェント パーク等が歩いていける至近距離にあり、丘と緑があるこのような公園が都心に複数あるというのは、日本では想像不可能です。また、先日、イタリアから帰英したときは、夜中にタクシーでロンドンの中心街を通りましたが、ウェストエンド地区の荘厳な建物群を見ながら、住宅事情から言えば日本は住むべきところではないという思いを改めてもちました。

もちろん、私は (NLP 至上主義者ではないのと同じ意味で) 英国至上主義者でも何でもなく、上記の私にとって肯定的な英国の側面に反して、英国に関して否定的な意見ももっています。

たとえば、私の住んでいる地区にはハムステッドというノザン ライン (北線) の地下鉄の駅があり、ここから南に下がると、カムデン タウン (以前はロンドンのヒッピーのメッカだった場所です) 経由でこのラインは繁華街のウェスト エンドと金融街のシティー方面に分岐しています。たまたま今日このラインの地下鉄に乗ったのですが、電光掲示板に二番目の列車が「ウェスト エンド経由」と出ていたので、一本乗り過ごしてこの列車に乗ると、カムデン タウン駅で突然「この列車は『シティー経由』に変更されましたので、『ウェスト エンド』方面に行く方は乗り換えてください」という車内アナウンスがありました。(こういうことは、日本ではまずありないと思いますが、ロンドンの地下鉄、特にノザン ラインでは非常に頻繁に起こります。) さらにこれに輪をかけるように、カムデン タウンでは「シティー経由」の列車だけが次々にやってきて、3 本目にやっと「ウェスト エンド経由」の列車に乗ると、なかなか列車は動かず、数分後「この列車も『シティー経由』となりました。乗り換えてください」というアナウンスがありました。再びこの列車から降りて、次の次にやっと「ウェスト エンド経由」の列車に乗れました。通常 20 分くらいかかる駅に着くのに 1 時間くらいかかりました。

こういう鉄道に関するケイオスは、日本では見られないと思いますが、英国ではごく普通に起こっていると考えて間違いありません。このことで最も興味深いことは、「右往左往」させられている乗客のほぼ全員は「あきらめの境地」にあって、誰も不満も不平も言わず、じっと静かに目的地に行く列車を待っているけなげな姿が見られることです。

日本ではこのようなケイオスはほぼ見られませんし、乗客は鉄道関係者に「高レベルのサービス」を当たり前のように要求しているので、もしこのようなことが起これば、大きな責任問題に発展するかと思いますが、英国では、それほど「機械のように定刻通りに、完全無比に正確に機能する」ことは誰にも要求されていません。ですので、昨年の JR の尼崎列車脱線事故のような列車事故は英国では起こりえないと思います。

ただ、英国人の方が「より人間的」だという見方もできるかと思います。

このことに関して付け加えると、本日の私の移動は、英国の私の会社の会計士に会うためでしたが、この方は、大事な用件で日本から私が何度も電子メールと電話でコンタクトしてもなかなか返事がいただけない方で、いろいろ苦労してきていますが、本日彼と会うと、一応処理すべきことはすべて処理してくれていました。

この地下鉄の状況も、会計士のやり方も、「すべて、終わりよければ万事 OK」という非常にプラグマティックな考え方の文化的背景が起因しているように思われます。日本人は、一般に、目的よりもそこに至る手段を大事にする民族であると思われます。

ところで、私が「異文化コミュニケーション コンサルタンシー」等の業務を行う英国の会社を 11 年前に立ち上げた裏にはある非常に興味深い私の経験がありました。このケース スタディはもうすでに「時効」になっているかと思いますので、ここに概述します。

1995 年頃、日本の電力会社のトップの VIP が夫妻で英国の核燃料関連会社に英国に招待された際に、私はコーディネータ/通訳として雇われたのですが、この際の英国側の接待には私は度肝を抜かれました。

この一行がスコットランドの核燃料施設を見学した後、 ロンドンに移動するためのチャーター列車が 1 時間くらい遅れ、エグゼキュティブの一行は、寒く雨の降る中英国側の用意したブラス バンドの演奏を聴き続けました。その後列車に乗り込んで、私たち通訳が座っているワゴンに日本人の担当者が真っ青な顔をしてやってきて「すみません、皆さん、今すぐ席から立って、全員次のワゴンに移動してください」と告げたので、私たちは指示通り移動しました。後から聞くと、これは、日本の VIP が列車の席に座ろうとしたら、ワゴンのラベルの付け間違いで、VIP 用のワゴンが存在していなかったので、他のワゴンに座っていた人々は一つづつ次のワゴンに移動しなければなかった、ということでした。

このような笑止千万のことは日本ではまず起こりえないと思いますが、英国では、たとえば、前日に担当者を派遣してこの列車の状態を事前にチェックする、といったことは行われないようです。英国側のこのような対応を見て (たとえ、日本の一行を接待したのは、他の契約会社であったとしても)、核燃料といった極めて繊細なビジネスをしている日本側がビジネスのなりゆきに非常に大きな不安を感じたのは間違いありません。

このように、私自身、英国で普通に起こっていることで日本人には理解できないような事例を何百と実際に見てきているので、日本人の方々 (特にエグゼキュティブの企業の方々) に対して、ある状況をケース スタディとして提示していただけたらその状況の中で欧米人がどのような行動を取り、かつそれはどのような動機付けに基づいているのか、等をその場で即アドバイスできる立場にあります。(もちろん、私は、同じことを、日本人を相手にする必要のある欧米人に対して行うこともできます。)

この問題は、どちらの文化圏の人々がより正しいか、という問題ではなく、コミュニケートしている当事者たちは、相互に相手の文化圏の世界地図を理解する必要がある、という問題であると、私は考えています。

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ところで、二、三日前にウェストエンド近くのロンドン大学 (University College London) があるゴウワー ストリートのウォーターストーンという大型書店に行ったときのことですが、初め NLP 関連の本を見つけることができず、どうしたものかと思っていましたが、実は、最後に、「NLP と (エリクソン式) 催眠」のコーナーがちゃんとあることを発見しました。写真が撮れなかったので、ここでその様子をお見せすることはできないのは残念ですが、何と、一つの棚 (1.5 m x 2.5 m) 全部がこのコーナーに捧げられていました。棚は 8 段あり、そのうち NLP 書が上五段を占め、下三段には催眠関連書が置かれていました。

この事実からだけでも、NLP が欧州でどれだけブレークしているかわかると思います。


2. スティーブ ギリガン ワークショップ

上にも述べたように、私は、8 月 7 日から 12 日までイタリアのベニスの近くの温泉町の元修道院で開かれたスティーブ ギリガンのワークショップ「催眠とヒーローズ ジャーニー」に参加してきました。

彼のワークショップはドイツの団体が開催した大きなイベントの一部で、そのため全体の参加者 320 名の大部分はドイツ人で、外国人は 10 名程度でした。ギリガンのワークショップの参加者は最初の 3 日間は 120 名程度で、後の 2 日間は 70 名程度でした。日本 NLP 学院のトレーナーのアラスタ プレンティスも参加しました。

ギリガンは、NLP 創始当初はジョン グリンダーとリチャード バンドラーの「生徒」でしたが、同じくその生徒のロバート ディルツがその後も NLP に献身してきている一方で、彼は、1970 年代後半スタンフォード大学で博士号を取得し、その後催眠ワークに集中してきています。そのため、彼のワークショップは、内容的には、私が伝統的なエリクソン式催眠と見なすテクニックが中心でした。私自身、1988 年に NLP を本格的に研究し始めたとき、「催眠の志向性」を放棄したつもりでいたので、厳密な意味では、今回「新しいもの」をギリガンから学んだとは言えないかもしれず、また、2 日目と 3 日目は、ギリガン特有の口調のトランス ワークはときには私を非常に深い眠りに導きました。

とは言っても、彼がデモンストレートした各トランス誘導演習テクニックは興味深く、有効性があり、さらに、彼が段階的に断片的に教えた各テクニックが最終日の大掛かりな半日を費やした演習の中でオーケストラのように統合されたのは、さすがにみごとだと思いました。

また、ギリガンは、最近亡くなったエリクソンの弟子だったスティーブ デ シェイザの「ソリューション フォーカスド アプローチ」についても言及していました。彼は、これを「ブリーフ セラピー」とも定義していましたが、私自身、ギリガン、グリンダー、バンドラー、ディルツ、デ シェイザ、ジェイ ヘイリー、ジョン ウィークランド、ポール ウォツラウィック (最後の三人は MRI (メンタル リサーチ インスティチュート) のメンバーです) を始めとする「エリクソン一族」に対する興味を新たにさらに強めた次第です。

なお、ワークショップのタイトルの「ヒーローズ ジャーニー」そのものは、厳密な意味ではカバーされませんでした。

疑いなく、NLP 関連の業界で最も催眠に長けたトレーナーはギリガンでしょう。ある人から、あるとき、ギリガンとディルツがその共同ワークショップでクライアントに対して二重トランスを行っていたとき、ディルツが状況に対応できなくなり、たじたじとなっていた、とも聞きました。

ギリガンは、その理論的な教えを 5 日間かけて継続的にワークショップ参加者に伝えましたが、「問題が解決である」という言葉を繰り返していました。これは、肯定的な「いい」トランスに入ったクライアントが自分自身の問題を別のフレームから眺めることで、問題自体が解決に変容する、という意味です。

また、ギリガンは「活用 (Utilization)」というキーワードも頻繁に使っていましたが、これについては、帰英後、ハムステッドのフロイト博物館 (フロイトは晩年この家に 1 年間住み、ここで亡くなりました) の近くの精神分析関連の書店で私が購入したギリガン著の書『ミルトン H エリクソンの遺産』から概要引用をしてみます。

「『活用』アプローチでは、 自分自身の経験を作り出すために使う戦略の観点から見て各人はユニークであるので、その結果、催眠をかけている人の効果性はクライアントの戦略にどれだけ適切にその戦略を合わせることができるかに依存している、と想定されます。このアプローチでは、さらに、無意識の過程は、知的で、自立的で、創造的な形で機能することができ、人々は、自分の経験を変容させるのに必要なすべてのリソースを自分の無意識に保持している、と想定されます。これこそが、トランスが何であるかについての定義です。すなわち、それはクライアントが制約的な意識的過程を脇に置いて、療法的な結果が得られるように無意識的リソースにアクセスして活用することができる文脈 (すなわち、トランス) に入り込む機会です。

このため、尋ねるべき質問は、催眠をかける人は、どのようにしてクライアントの中に催眠的過程を誘発するか、になります。彼は、その努力を導く一般的原則を使う必要があります。私は、これらの原則の中で次のことが最も重要であると見なします。(1) クライアントの現実を受容し、活用する、(2) クライアントの行動をペーシング & リーディングする、(3) 「抵抗」をペーシングの欠如と解釈する。

最初の受容と活用の原則は、エリクソンによって何度も強調されました。簡単に言うと、「受容」とは、「この時点であなたが行っていることは、まさしく私があなたに行ってほしいと思っていることです。それはいいことです。完璧です」と想定し、クライアントに対してそのようにコミュニケートすることです。「活用」とは、「あなたが今行っていることは、まさしくあなたが X を行うことを可能にさせることです」と想定し、クライアントに対してそのようにコミュニケートすることです。受容と活用の過程は、クライアントが行っていることはいいことで、かつ、何か他のこと (たとえば、トランスの経験) を達成することを可能にさせる、ということをコミュニケートする過程です。

これらのエリクソン式コミュニケーションの原則に従えば、効果的な催眠コミュニケータは、すべての経験は妥当性があり、活用できると想定し、求められる状態に向かって行動的にペーシング & リーディングします。彼は、どの道筋が求められる状態に通じるかわからないし、どのテクニックが最も適切に機能するかわからないと、公然と認めます。」

私は、この引用文の内容が、ギリガンの 6 日間のワークの内容を非常に的確に言い表していると思います。

なお、ギリガンとディルツは、ここ数年間ドイツで共同ワークショップを行ってきているという情報を私は得ましたが、今後近い将来そのような二人のワークが行われるのであれば、ぜひとも参加してみたいと思っているところです。


3. 『ニューコードNLPの原点: 個人的天才になるための必要条件』書評

「NLP Traffic Intersection」という Web サイトに最近、私の翻訳書『個人的天才になるための必要条件』の書評が掲載されたので、全文引用してみたいと思います。オリジナルの文は以下でアクセス可能です。

http://blog.livedoor.jp/key_of_nlp/archives/50649147.html

(引用開始)

NLP最深部最先端の原点にして最難解書!

本書は1987年に出版された原書「Turtles All the Way Down: Prerequisites to Personal Genius」が19年の時を経て翻訳化されたものです。

書名にある「個人的天才」とは、社会的な評価を受け得る要件を満たす天才性ではなく、自らの専門領域で潜在的に持つ能力(社会的評価を受け得るかどうかは未定な狭義の意味の)を十分に開発することで発揮される天才性を指しています。

原書はNLP創始者の一人であるジョン・グリンダー氏とビジネスパートナーであったジュディス・ディロージャ女史が開催していた5日間のセミナー「個人的天才になるための必要条件」の要所を筆耕したものとなっており、今回翻訳にあたり著者自らが新たに冒頭コメントを寄せています。

本文はファシリテーターとして壇上に立つ筆者両名とセミナー受講者の会話という文体になっており、(1)当時の米国で社会的に認知されている(ユーモアなども含めた)常識あるいは感覚、(2)人類学、認識論、心理学、物理学、言語学、生物学、哲学などの一般的教養、(3)意識と無意識に関する経験的知識、などが自然に(ある意味当然の前提として)やり取り話されています。

よってそれらを理解するための要件から文化的世代的に感覚が離る程本書は難解になり、会場の雰囲気や会話の中で交わされるノンバーバルなやり取りが文章からは伝わりずらいことを考慮すると、少なくとも初めてNLPの書籍に触れる方には、かなりおすすめしづらい書籍になっています。

ただ、その会話を記述している文面には…

カルロス・カスタネダの書籍にある「世界を止める」ための内的対話の中断法
一次的注意と二次的注意の調和的コーディネートで解放される力の発現
無意識が解放されることから生じ得る危険性を排除するための方法
デーモンに自由に動いて潜在能力を全開発揮してもらうための手法

…というような刺激的なテーマについて、実際にワークが執り行われる前後の解説と受講者との質疑応答が書き綴ってあり、セミナー日程が進む毎に起こる受講者の混乱とセッションによる驚きの効果が生の声で語られています。

NLPのテクニックをこれ程先鋭的に扱っている書籍はこれまで国内にはありませんでしたので、このテーマだけでもかなり驚きを禁じ得ませんが、より重要な点は著者であるグリンダー氏がこの後20年近く、今もまだそれを研究・発展させ続けている現実です。

その研究成果が(原書発行と時期が重なる)NewCodeNLPの開発と無関係でないのは、本書に「ニューコードNLPの原点」と邦題サブタイトルが付いていることからも明らかでしょう。本書は難易度と560ページにもなるその重厚さも合わせて、NLPマスタープラクティショナー以上の参考(研究)書籍として位置づけられる一冊だと思います。

(引用終了)

私は、この書評は非常に刺激的だと思いました。

作成: 2022/1/10